#手紙にしよう
2022.11.9
第6回#手紙にしよう対談
「切手デザイナー×イラストレーター」トークセッション
イラストレーターが訪ねる
切手と手紙の世界
切手デザイナー
楠田祐士
×
イラストレーター
木内達朗
月ごとに発行される切手のパートナーとなるポストカードを制作する企画「#手紙にしよう」。
第6回の切手は、2022年11月に発行される「冬のグリーティング」。
切手を作った楠田祐士さんと、ポストカードを描く木内達朗さんが、
切手への想いや、お互いの仕事のこと、ポストカードのイメージなどを語り合います。
ページの最後で、完成したポストカードもご紹介。ダウンロードして、手紙を書いてみませんか。
〜PROFILE〜
兵庫県生まれ。2014年に美術大学のデザイン科を卒業。
学生時代には広告デザインに加え、絵本やアニメーションなども制作した。
新卒で日本郵便株式会社に入社し、切手デザイナーとなる。
代表作に「灯台150周年」、「My旅切手シリーズ」、「美術の世界シリーズ」、
「ふみの日(2019年、2020年、2021年)」など。
国際基督教大学教養学部生物科卒業。ArtCenter College of Designイラストレーション科卒業。2億枚刷られたというイギリス・ロイヤルメールのクリスマス切手、世界中の店舗にて展開されたスターバックス・ホリデーキャンペーン、ニューヨーク・タイムズ、ワシントンポストなどのイラストレーションを手がける。近著に『木内達朗作品集』(玄光社)がある。TIS会員。イラストレーション青山塾講師。
木内達朗さん(以下、木内):楠田さんは新卒で入社されたそうですが、切手デザイナーとして採用されたんですか?
楠田祐士さん(以下、楠田):そうですね。9年ほど前に、久しぶりに新卒の切手デザイナーを1名募集するということで、入社しました。
木内:切手デザイナーは8人いらっしゃるんですよね、滅多になれない職業ですね。
楠田:自分の場合は、たまたまタイミングがよかったですね。
木内:切手のデザインに対して、外部の方が意見することはないんですか? 例えば、僕がイギリスのロイヤルメールの仕事をした時には、収集家や研究家、いろんな大学の先生などが集まった40人ぐらいの外部のコミッティー(委員会)があって、そこのチェックを通らないと発行できませんでした。
楠田:なるほど。日本の切手も、特に記念切手と言われる国家行事や外交関係の切手など、専門知識が必要なものは、国の機関や外部の先生方に熱心にアドバイスをいただきながら作ります。今回私が担当したのはグリーティング切手なので、基本的には社内で検討しながら比較的自由に進めることができますね。
木内:わりと自分の思いで作れる切手と、そうでない切手があるんですね。
楠田:そうなんです。ただ、今回の「冬のグリーティング」に関しては、外部の校閲の方にデザインも確認してもらっています。自分が描いた最初のラフを見ていただいて、「雪の重みでここは下がるんじゃないですか?」とか、細かい修正をいろいろと入れていただきました。
木内:全体の色が渋めだから、スノードームの雪が目立っていいですね。ここにたどり着くまでにはけっこう苦労されたんですか?
楠田:統一感を持たせたかったので、アイデアとしてまずスノードームが出てきました。初めは63円、84円どちらもスノードームをモチーフにしようかなと思ったんですけど、全部並べてみると多すぎる感じがしたので、どうしようかなと思って。自分は大学時代には絵本を作ったり、アニメーションを作ったりしていて、物語性を感じるものに落とし込みがちなんですよね。なので、84円はスノードーム、63円は自分が得意とする絵本的なストーリーを感じるものを描くことにしました。そこでふと思いついたのが、84円のスノードームの中に描いた冬の風景を、63円で描こうと。よく見ると63円の左から2番目の切手の中には、84円の1番左の切手に描かれているスノードームも置いてあるんですよ。
木内:あーいいですね、それは。
楠田:63円と84円を一緒に楽しんでもらえるような切手にするという方向性が、そこでやっと決まった感じでしたね。
楠田:今日は過去に作った切手も持ってきました。
木内:これは「楽器シリーズ」ですか。
楠田:そうです。パソコンで描いているんですけど、楽器は構造がすごくしっかりしているので、描くのが大変でしたね。
木内:たしかに、切手の小さいサイズの中にちゃんと構造を描かないといけないですもんね。
楠田:そうなんです。浜松市楽器博物館の当時の館長さんにアドバイスしていただいたんですけど、毎回小さな修正がたくさん入りましたね。
木内:「美術の世界シリーズ」も担当されていたんですね。
楠田:自分は子どもの頃から美術の教科書を見るのが好きだったんです。だから、日本画や西洋画、工芸品など、いろんなジャンルの作品が入っている教科書みたいな切手を作りたいと思って。東京大学の大学院で美術史を研究されている先生に相談しに行ったところ「色でまとめるといろんなものを採用できていいんじゃないか」ということで、最初にテーマカラーを決めてから作品を選んでいきました。青を第1集にしたのも、監修の先生からのアドバイスでしたね。人間は長い間、青と格闘してきた歴史があるということで。
木内:みんなが知っている絵が切手になっているから、売れそうです。「楽器シリーズ」もそうでしたけど、小さくなっちゃうと見えないところもありそうですね。
楠田:あります。本当はもっと大きくしたいんですけど、あまり大きくすると貼った時に郵便番号枠に引っかかってしまうなどの支障もありますので。
木内:切手の最大サイズは決まっているんですか?
楠田:日本では51mmが最大です。私は2度「寄付金付お年玉付年賀郵便切手」で作ったことがあります。
木内:このお年玉付きの切手もいいですね。
楠田:「平成28年用年賀郵便切手」や「平成29年用年賀郵便切手」は、入社して間もない頃に郷土玩具をモチーフに作ったものでした。
木内:シール式じゃなくてのり式なんですね。僕は小学生の頃に切手収集をしていたこともあって、やっぱりのり式は切手って感じがしていいなあ。シールかのりかというのは、どのように決まるんですか?
楠田:自分が入社したころはグリーティング切手以外はほとんどのり式でしたけど、最近はシールの方が使いやすくて支持されているので、ほぼシール式になりました。シール式だと切手の形を変えられるという自由度もありますし。
木内:シール式も使いやすくていいですけどね。のり式はドット(目打ち)で明確に区切られているから、切手自体がすごく目立ちますよね。
楠田:木内さんのプロフィールを拝見して、大学で生物を学んでから絵の方に進まれたことを知りました。私は漫画やアニメーションが好きというところから美術に入っている人なので、生物から美術というのは新鮮で。
木内:生物をやるなら研究職に就きたかったんですけど、自分の頭では無理かなと思ったので、小さい頃から好きだった絵をやり直すことにしたんですよ。
楠田:生物を学ばれたことが、絵を描くことに影響を与える面もありますか? 例えば、無機質なものを描く時にも、生き物を観察するような目線があるとか。
木内:生物ってスケッチする時によく見て描くんですけど、イラストレーターの仕事をする時にも、すごく観察して描くんですよ。そういった部分ではかなり活きているのかなと思います。
楠田:美術予備校時代、自分は無機物のデッサンがすごく苦手で。当時の先生に「生き物を描くのは楽しいけど、生きていないものを描くのは楽しくない」と言ったら、すごく怒られて(笑)。
木内:楽しくないものは楽しくないですよね(笑)。
楠田:でもその時に「命があるかないかは君が決めているのかね。工業製品だって生きているかもしれないじゃないか」と言われたことが心に残っていまして。木内さんが装画を描かれている『ロスジェネの逆襲』(ダイヤモンド社)の大きなビルなどを見ると、生き物みたいな感じがしたので、建物にも命を感じながら描かれているのかなと思いました。
木内:なるほど。自分ではあまり意識したことがなかったかもしれません。実は、僕も無機物を描くのはあまり好きじゃないんですよ。どちらかというと木とか動物とか、やわらかいものを描くのが好きで。ビルの窓を描くのとか、面倒くさいですよね(笑)。
楠田:面倒くさいです(笑)。
木内:もちろん、依頼があれば描きますけどね。僕はデジタルで描いているんですが、楠田さんはいかがですか?
楠田:自分もデジタルなんですよ。
木内:修正しやすいので、いいですよね。
楠田:最近はタブレットの細いペンを使って、がーっと塗りつぶすのにはまっています。ちょうどいいテクスチャー(*)を出したいなと思って。
木内:僕もテクスチャーはよく入れます。かすれるブラシとベタのブラシの2種類ぐらいで描いたあと、最後にテクスチャーを入れていて。テクスチャーを入れると絵がよく見えるんですよ(笑)。
木内:テクスチャーはアクリル絵具で塗ったものをスキャンして、取り込んでストックしてあります。例えばこの絵だと、人の影のところにある点々はペーパータオルのテクスチャーなんですよね。
楠田:ペーパータオルなんですか。
木内:絵具を塗った面にペーパータオルを被せてめくったら、たまたまこのテクスチャーが出たのでスキャンしておきました。面白いテクスチャーがあったらとりあえずスキャンしておいて、あとで画面上で試しています。
楠田:なるほど。木内さんの絵は、ちょうどいい具合いで絵具っぽいですよね。手描き感や風合いがあって、すごいです。
木内:あまりデジタルっぽくなり過ぎるのは好きじゃないので、何とかして手描きっぽくしています。
楠田:デジタルに移行するまではずっと手描きだったんですか?
木内:ええ。僕はずっと油絵をやっていたので。
楠田:油絵を。そうか〜。
木内:当時は仕事も油絵で、デジタルは色を確認するために使っていて。この手法を見つけてからは、すべてデジタルに移行しました。
楠田:イギリスのロイヤルメールの仕事もデジタルでしたか?
木内:そうです。これはコンペで決まりました。最初にイラストレーターや画家が3人ぐらい選ばれて、それぞれが仕上げに近いラフを作って、さっき話したコミッティーがラフをもとにどの人にするか選ぶという感じで。たまたま僕が選ばれて、ラッキーでした。面白い絵を描きたくていろんなラフを出したんですけど、ほとんどボツで、普通のクリスマスの絵が選ばれましたね。誰が見てもひと目でクリスマスの切手とわかる無難なものを、ということで。
楠田:ほかにはどんなラフを出されたんですか?
木内:サンタクロースがいっぱいいるとか、足のついた雪だるまが歩いているとか。
楠田:いいですね〜。
木内:今回のポストカードでどんな絵を描こうか考えていたんですけど、「冬のグリーティング」は雪が印象的だったので、雪の白を活かしてメッセージを書くスペースを作ってもいいかなと思いました。あとは、スノードームの中を開けておいて、メッセージを書けるようにするとか。
楠田:雪の白を活かすのはよさそうですね。スノードーム案もかわいいと思います。
コンセプトの話に戻るんですが、「冬のグリーティング」が最初に発行された時、実はクリスマスカードに貼るための切手として作られていたんですよ。ただ、12月24日、25日が終わると売りにくくなってしまうということで、近年はサンタクロースとか、クリスマスに直結するイメージのものは切手に登場させなくなりました。でも、ポストカードの中だったらクリスマスのモチーフを入れてもらってもいいかもしれませんね。
木内:なるほど。たしかに用途が限定されちゃいますもんね。スノードーム案をもとに、もう少し練ってみようと思います。
楠田:ありがとうございます。楽しみにしています。
*テクスチャー……質感のこと。画像編集ソフトなどに「テクスチャー機能」が搭載されており、パソコンを使って絵を描く人が、絵に質感を出すために用いる場合がある。
完成したポストカードはこちら!
第6回ポストカード
「Snowdome」
ポストカードはこちらからダウンロードできます。
https://andpost.jp/project/tegami.html
第6回切手
「冬のグリーティング」
2022年11月16日発行
全国の郵便局の郵便窓口、
または「郵便局のネットショップ」にて、11月16日(水)から発売開始!
https://www.post.japanpost.jp/kitte/collection/archive/2022/1116_01/
協力:東京イラストレーターズ・ソサエティ、日本郵便
構成・文:平岩茉侑佳