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#手紙にしよう

  • 2022.5.25

  • 第1回#手紙にしよう対談

  • #手紙にしよう

    「切手デザイナー×イラストレーター」
    トークセッション

    イラストレーターが訪ねる
    切手と手紙の世界

    第1回 切手ってやっぱり
    人間が作っていたんだ!
    (小池アミイゴ)

    第1回 切手ってやっぱり人間が作っていたんだ!(小池アミイゴ)

    「#手紙にしよう」を合言葉に、手紙の新しい可能性を探っていくプロジェクト「&Post」では、月ごとに発行される切手のパートナーとなるポストカードを作る新企画がスタート。
    新たに発行される切手を作った切手デザイナーと、ポストカードを描くイラストレーターが、作った切手への想いや、 お互いの仕事のこと、ポストカードのイメージなどを語り合い、ポストカードを完成させていきます。
    第1回の切手は、2022年6月に発行される「夏のグリーティング」。
    切手のデザインを担当した貝淵純子さんと、ポストカードを描く小池アミイゴさんの対談の様子をレポートします。
    ページの最後には、完成したポストカードもご紹介。ぜひダウンロードして、手紙を書いてみませんか。

    〜PROFILE〜

    貝淵純子(かいふち じゅんこ)

    1960年東京都生まれ。2005年に日本郵政公社(当時)へ入社、切手デザイナーとなる。近年では、「普通切手・通常葉書」「郵便創業150年切手帳(和紙シール式切手)」「自然の風景シリーズ」「ライフ・花(竹久夢二の花図案)」等を担当。学生時代は日本画を専攻し、人物や静物、特に花を描くのが好き。現在、日本郵便株式会社 郵便・物流事業企画部 切手・葉書室 指導役。

    小池アミイゴ(こいけ あみいご)

    1962年群馬県生まれ。長沢節主宰のセツ・モードセミナーで絵と生き方を学ぶ。1988年からイラストレーターとして活動開始。併せて音楽家や地方発信のムーブメントをサポートし、各地でライブやワークショップ、展覧会を重ねる。東日本大震災以降は日本各地を巡り、個展「東日本」を開催。著書に『ちいさいトラック』(福音館書店刊)、『かぜひいた』(教育画劇刊)、『水曜日郵便局 うーこのてがみ』(KADOKAWA刊)、『はるのひ』(徳間書店刊/第27回日本絵本賞受賞)、『台湾客家スケッチブック』(KADOKAWA刊)などがある。東京イラストレーターズ・ソサエティ理事長。
    https://www.tis-home.com/amigos-koike/

    切手デザイナーの仕事とは

    小池アミイゴさん(以下小池):貝淵さん、初めまして。
    貝淵純子さん(以下貝淵):初めまして。たぶん同世代だと思うので、気楽に(笑)。
    小池:貝淵さんはずっと切手デザイナーを?
    貝淵:ちょっと変わり種なんですけど、私は当時の日本郵政公社に45歳の時に中途で入ったんです。それまではフリーランスでイラストレーションの素材集のカットを描くお仕事などをしていました。そうしたら当時の技芸官(*1)、今で言う切手デザイナーをしていた学生時代の同級生が、部外作家として切手デザインのコンペに参加しないかと誘ってくれて。それが25年くらい前ですね。それから部外作家として関わりはあったんですけど、ちょうどその頃に、郵政省が民営化に向けて切手デザイナーを増やすというお話があったので、試験を受けて入社しました。

    切手デザイナーの仕事について語る貝淵さん
    切手デザイナーの仕事について語る貝淵さん

    貝淵:基本的に、担当する切手のコンセプトはチームで考えます。どの世代に向けるか、題材はどうするか、表現はどうするか、既存の作品を使うのか、切手デザイナーが描くのか、部外作家に頼むのか、イラストレーションにするのか、写真にするのか、とかね。毎月1回ある大きな会議でまとめたコンセプトのプレゼンをして、この切手はこの方向で行こうってことをみんなで決めるんです。コンセプトが決まったら、今度は2、3ヵ月後にデザイン案を会議に提示して、決定していきます。
    小池:1つの切手に3ヵ月くらいかかるんですか。
    貝淵:切手の発行から遡ると、1年くらい前から取りかかりますね。
    小池:へ〜、大変な仕事ですね。

    写真を使って表現した「日本の夏」

    貝淵:今回の企画でテーマになっている切手「夏のグリーティング」も、1年ほど前から動いていました。それでね、私は美大時代に日本画を専攻していたので、本当は絵を描くのが好きなんですけど、「夏のグリーティング」は写真を使った切手なんですよ。このシリーズってまだ8年しか出ていないんですが、イラストレーションの切手が続いてきたので、今回は写真の切手を求められて。
    小池:まず、ごめんなさい。これは写真だったんですね!?
    貝淵:そうなんですよ。
    小池:きれい!
    貝淵:まぁ、ありがとうございます。

    「夏のグリーティング」63円郵便切手/2022年6月1日発行
    「夏のグリーティング」84円郵便切手/2022年6月1日発行
    「夏のグリーティング」63円郵便切手(上)、84円郵便切手(下)/2022年6月1日発行

    貝淵:切手の年間発行スケジュールが前年の12月頃に公表されるんですが、同時期に発行されるものが似通ってしまうとお客さまに喜んでいただけないので、前後に発行される切手がイラストレーションを使った切手だろうとなったら、今回はスカッとした写真で日本の夏を表現しよう、となるわけです。私たちは作家ではないので、約2万4000局ある全国の郵便局で広く使っていただけるであろうデザインを目指すことが多いですね。
    小池:イラストレーションで一番難しいのは、まさにそこですね。絵がすごく好きな人に届けることは割と簡単なんだけど、広く届けるのは難しい。そこに取り組んでいらっしゃるところに、僕は興味を持ちました。絵を描くことだけが目的になっちゃうとイラストレーションじゃなくなっちゃうけど、この切手は使う人を意識して、コミュニケーションの手段として作られているから、すごく力強いものを感じるんですよね。自分たちも仕事の仕方として見習わなければいけないなと思う。

    「使う人に向けて作ることが大切」と小池さん
    「使う人に向けて作ることが大切」と小池さん

    貝淵:切手ってすごくたくさん作る印刷物なんですよ。残ってしまわないよう、たくさん売れるものを作らなきゃいけない。そのためには、法人さんも意識して作るんです。個人の方々にももちろん買っていただきたいけれど、やっぱりたくさん使っていただくためには、「夏季休業のお知らせ」や「夏のセール」、「暑中見舞い」などの用途で企業の方々が使いやすいものをと、今回はすごく求められました。
    小池:いい話~。イラストレーターの仕事の仕方としてちょっと足りていないなと思うのは、お客さまの顔を見ようとするってことかなと。デザイナーやアートディレクターに向けて作品を作っても、その先のお客さまのことは見ていない、もしくは見えないみたいなね。受け取る人を想像したものづくりをしないと、ふわっとした仕事になっちゃいますよね。勉強になりますよ、本当に。
    貝淵:いえいえ。客観的にやっていかないと。独りよがりになってしまってはいい切手じゃないし、人にいろいろ意見をもらった時に、それをつっぱねたらみんな何も言ってくれなくなっちゃうと思うので。そこは謙虚に、と思ってやっています。
    小池:「つっぱねたら何も言ってくれなくなっちゃう」って言葉、身に沁みますね〜。自分が作品の王様みたいになっていくと、世の中との会話がなくなっちゃうと僕も思います。

    人生と並走してくれる切手

    貝淵:ちょっと脱線するんですけど、私が担当した2月1日発行の切手で、竹久夢二の作品を題材にした「ライフ・花」というものがあるんです。竹久夢二の花の図案を使ってみたことで、お客さまに喜んでいただけた切手で。私はたくさんいらっしゃる素敵な作家さんや既存の作品を文化として切手でご紹介する役割も担えたらいいなと思ってやっています。
    小池:素晴らしいじゃないですか。僕は“純子”についていきますよ! 夢二をやってみようというのは、自分からご提案されて通ったの?
    貝淵:そう。プレゼンで通った時はすごく嬉しかった。竹久夢二の図録を複数見て、共通して紹介されている4ヵ所の美術館にお声がけをして、作品の写真をお借りしたんです。そうすれば切手になったことを喜んでくださる方たちが全国に、ということでね。

    「グリーティング(ライフ・花)」63円郵便切手/2022年2月1日発行 「グリーティング(ライフ・花)」84円郵便切手/2022年2月1日発行
    「グリーティング(ライフ・花)」63円郵便切手(左)、84円郵便切手(右)/2022年2月1日発行

    小池:戦略家だな〜。そのお話、すごくいいですね。1ヵ所だけじゃなくて他にもあたって、資料もすごく探って作ったというプロセス、イラストレーションとして最上級の進め方だと僕は思います。自分で描かれた切手もあるの?
    貝淵:例えば、普通切手は自分で描きましたね。2円のエゾユキウサギや、5円のニホンザル、84円のウメとか。
    小池:僕、使ったことありますよ!
    貝淵:ありがとうございます。お堅い絵でしょう? もともとは写実的に描くことが技芸官の仕事だったので。
    小池:これが描けなくて僕は苦しんでいるんですから。いや〜全然違う。うまい!
    貝淵:他にも、47都道府県の花の切手も自分で描きました。都道府県ごとの花の切手をシリーズで10集まで出していって、最後に47都道府県の花をすべて集めたシートを発売したんです。
    小池:表層的じゃない、本物のおしゃれってこういうことですわ。引きで見た時の色のグラデーションが本当にきれいですよね。
    貝淵:ありがとうございます。色鉛筆を使って描いた切手でした。

    「ふるさとの花(全国47都道府県の花)」50円郵便切手/2011年7月15日発行
    「ふるさとの花(全国47都道府県の花)」50円郵便切手/2011年7月15日発行

    小池:この切手のことはよく覚えていますよ。東日本大震災の頃に見て、「花の切手、癒されるなー」と思って。僕、2008年くらいから花の絵を描いているんですけど、描こうと思ったきっかけが、友人が亡くなったことだったんです。だから震災が起きた時にも、このまま花を描き続けようと思って。そんな時にこの切手を見て、自分の人生と並走してくれているような気がしました。自分のやっていることの背中を押されたようなイメージがありましたね。
    貝淵:一生懸命作ってはいるけれど、やっぱりみなさんがご存じなわけではないんだなと日々感じているので、この切手があったことをアミイゴさんが覚えてくださっていたなんて。
    小池:見た時に「すごいのが出たな」って思いましたよ。君が作っていたのか、“純子”!
    貝淵:かなり前ですけどね(笑)。自分で描いている時は、本当に幸せなんですよ。
    小池:正直なところ、僕が描く絵に比べて、世の中の人みんなが「上手いね、いいね!」って思う絵ですよ。僕の絵は、分かる人と分からない人がいるので。
    貝淵:そこがもどかしいところでもあります。切手は図案考証(*2)を受けて学術的に間違いなく進めているところがあるので、図鑑に出ているような絵を求められてしまう。ただ最近は、他の切手デザイナーたちがおしゃれな絵、かわいい絵もいっぱい描いているので、幅がどんどん広がっていると思います。

    小池さんの作品。木製パネルにアクリルガッシュで描くことが多いそう
    小池さんの作品。木製パネルにアクリルガッシュで描くことが多いそう

    切手とおそろいのポストカードを

    貝淵:アミイゴさんの絵ってやさしくて本当に素敵だから、今回どんなポストカードを作られるんだろうって、すごく楽しみですよ。切手はとにかく添え役なので、私としてはアミイゴさんの夏のイメージをぶちまけてほしい。やっぱりアミイゴさんの個性を、良さを出していただきたいですね。
    小池:ありがとう〜。僕ね、何を描けばいいか分かりました。自分ごときにずっとリスペクトの言葉をかけてくださったから、それに応えるために全種類の切手に対して絵を描いてみようと思います。
    貝淵:えっ!
    小池:すごくラフなものですけど、紫陽花の切手だったら紫陽花を、ラベンダーの切手だったらラベンダーをというふうに、手数を減らして全部描きたいですね。
    貝淵:おそろいは嬉しいですね。お客さまにも喜ばれるし。でも全部なんて、無理はしないでくださいね。
    小池:そのくらいの腹でやらないとね。
    貝淵:アミイゴさんの絵は色がとにかくきれいだから、全面絵でもいいなって思っちゃいます。ぜひ、アミイゴさんのよさを活かして、なおかつ楽しんで作ってくださるといいなと思います。
    小池:まとめ方も、やっぱりプロデューサーだね。切手デザイナーであり、イラストレーターでもあり、ディレクターの資質も持ってやってこられた仕事というイメージがあって、大変面白いお話でした。
    貝淵:こちらこそ、ありがとうございました。すみません、私ちょっとしゃべりすぎましたよね(笑)。
    小池:本当ですよ〜よくしゃべるなと思って(笑)。いやー楽しかったです。

    *1 技芸官…現在の切手デザイナー。郵政省の頃は技芸官という職名だった。
    *2 図案考証…切手の図案に誤りがないか、専門家などに依頼して確認すること。

    完成したポストカードはこちら!
    第1回ポストカード
    「2022 真夏の切手ラブ♡」

    第1回ポストカード「2022 真夏の切手ラブ」

    ※10種類のポストカードのダウンロードはこちらから!
    https://andpost.jp/project/tegami.html



    第1回切手
    「夏のグリーティング」
    2022年6月1日発行

    「夏のグリーティング」63円郵便切手/2022年6月1日発行 「夏のグリーティング」84円郵便切手/2022年6月1日発行

    全国の郵便局の郵便窓口、
    または「郵便局のネットショップ」にて、6月1日から発売開始!
    https://www.post.japanpost.jp/kitte/collection/archive/2022/0601_01/

    協力:東京イラストレーターズ・ソサエティ、日本郵便
    構成・文:平岩茉侑佳