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#手紙にしよう

  • 2022.7.13

  • 第3回#手紙にしよう対談

  • #手紙にしよう

    「切手デザイナー×イラストレーター」トークセッション
    イラストレーターが訪ねる
    切手と手紙の世界

    「手作りや手書きの文化をずっと残していきたい」

    第3回 手作りや手書きの文化をずっと残していきたい

    切手デザイナー
    山田泰子
    ×
    イラストレーター
    北澤平祐

    月ごとに発行される切手のパートナーとなるポストカードを制作する企画「#手紙にしよう」。
    第3回の切手は、2022年7月に発行される「ふみの日にちなむ郵便切手」。
    切手を作った山田泰子さんと、ポストカードを描くイラストレーターの北澤平祐さんが、
    作った切手への想いや、お互いの仕事のこと、ポストカードのイメージなどを語り合いながら、ポストカードを完成させていく様子をレポートします。
    ページの最後で、完成したポストカードもご紹介。ぜひダウンロードして、手紙を書いてみませんか。

    〜PROFILE〜

    山田泰子(やまだ やすこ)

    日本郵便切手デザイナー。京都府の郵便局の集配社員として入社後、2014年に切手デザイナーとなる。担当しているシリーズは「絵本の世界シリーズ」(2017年〜)。その他担当した切手は、「秋のグリーティング」(2021年)、「日本・モンゴル外交関係樹立50周年」(2022年)など。

    北澤平祐(きたざわ へいすけ)

    アメリカに16年間在住後、帰国。イラストレーターとしての活動を開始。多数の書籍装画や、フランセ、キャラメルゴーストハウス、アフタヌーンティーなどの商品やパッケージ、サンリオとのグリーティングカードシリーズまで幅広い分野でイラストレーションを提供。近著に『The Current/ 北澤平祐作品集』(玄光社)、『ゆらゆら』(講談社)、『ぼくとねこのすれちがい日記』(ホーム社/集英社)がある。
    http://www.hypehopewonderland.com

    手作りの年賀状との出会い

    北澤平祐さん(以下、北澤):山田さんはどうして切手デザイナーさんになられたのか、お聞きしてもよろしいですか?
    山田泰子さん(以下、山田):もともと私は別の仕事をしていたんですけど、その仕事に疲れたので、郵便局の年賀状の仕分けのアルバイトをやってみたんですよ。そこで、お客さまの想いのつまった手紙を届ける仕事って素晴らしいな、手紙文化を盛り上げるお手伝いがしたいなと思ったことと、郵便局での仕事が楽しかったこともあって、そのまま長期アルバイトとして働くことを希望して、配達員として採用していただきました。その後、正社員の採用試験に合格してからも配達の仕事をしていたんですけど、切手デザイナーを社員の中から募集するという機会があって、それに応募したのがきっかけです。
    北澤:社員から募集というのはよくあることなんですか?
    山田:いや、それが初めてだったそうです。それでデザイナーとして採用され、地元の京都から東京に来て、今に至ります。
    北澤:切手デザイナーになるためのテストはどんなことをするんでしょうか。何か描かれたんですか?
    山田:一次試験として花のデッサン、二次試験が面接、三次試験で着彩、最終試験では、面接と実技試験でした。しかもその実技は、切手デザイナーたちが働くデザイン室に行って、実際に切手のデザイン案を作成するという内容でした。
    北澤:その時はどんな切手をデザインされたんですか?
    山田:三次試験で着彩した花を使って「グリーティング」をテーマに切手を作るというお題だったので、手紙をイメージした「文子(ふみこ)と文男(ふみお)」というキャラクターを考え、それを切手のデザインにしました(笑)。「最終試験で使うのだったら、着彩の花はもっと違うものを選んだのに!」と思いつつも、文子と文男がお花のまわりにいる切手を作ったんですけど。
    北澤:あはは(笑)、そうだったんですね。もともと小さいころから絵は描かれていたんですか?
    山田:はい。小さいころから絵を描くのが好きで、京都精華大学のデザイン科に進学しました。北澤さんはアメリカの大学を出ていらっしゃいますよね、すごいですね。
    北澤:いやいや……私は親の都合で幼少期からアメリカに住んでいて、成り行きでアメリカの大学に行っただけなんです。
    山田:北澤さんの作品の色がすごくきれいなのは、外国の刺激なのかなと思って。
    北澤:アメリカに住んでいたころは、むしろ暗い色づかいをしていたんですよ。黒1色で描いたり、毒々しい赤を使ったりしていて。たぶん、日本ってアメリカに比べると街なかがすごくポップでカラフルなので、逆に日本に来てからいろいろ影響を受けて、知らぬ間に色数が増えていったのかもしれません。

    お互いの制作方法について

    山田:今回の「ふみの日にちなむ郵便切手」を作る上で、最初は紙にアクリル絵具で描いたり、水彩で描いたりといろいろ試しました。最終的には、水彩とクレヨンで描いたものをデータに取り込んで、Adobe Photoshop上で色紙のようなものを作り、それを貼り合わせて仕上げています。
    北澤:切手に比べるとかなり大きく描かれるんですね。それでこの切手の凝縮感が出るんだ。
    山田:A4くらいの大きさがないと描きにくいんですよ。私の場合、いきなりデジタルで描くとうまくいかないので、最初は紙に描いています。修正等を考えたら全部デジタルで作業するのが一番楽だとは思うんですけど。

    A4サイズのイラストレーションボードにラフを描き、色のイメージを固めていく
    A4サイズのイラストレーションボードにラフを描き、色のイメージを固めていく

    山田:アイデア出しも、ラフ案を紙に何枚も描いて出すというやり方をしているんですよ。
    北澤:そうなんですね、どちらかと言うと、私は頭の中で全部組み立てちゃう方かもしれません。
    山田:北澤さんはどんなふうに描いているんですか?
    北澤:このカードの場合は少し特殊で、たまたま幼馴染がポップアップのしくみを作るデザイナーだったので、彼に私の自宅に来てもらって、隣同士に座って手を動かしながら作っていきました。例えばブランコのカードだったら、私がブランコの絵を描き始めて、それを見ながら隣で彼が紙を切りながらしくみを作って、その形を受けてこっちもまた直して、という作業をリアルタイムで繰り返してどんどんできあがっていきました。もともと手紙は大好きなので、カードの仕事はすごく楽しかったです。

    「ふたりぼんちゃん」カード(サンリオ)は全6種類。全国のサンリオの店舗や書店、ネットショップなどで販売中
    「ふたりぼんちゃん」カード(サンリオ)は全6種類。全国のサンリオの店舗や書店、ネットショップなどで販売中

    北澤:たいていの場合は、アイデアを思いつくまでにそれなりの時間がかかります。アイデアのもととなるキーワードをスマホに打ち込んでいって、ある程度ストックがたまったところでラフを描いて。ラフは山田さんと同じで、手描きのものを取り込んでパソコンやiPadでレイアウトし直すこともあります。クライアントからラフのOKが出たら、プリントアウトしたラフを水彩紙の下に置き、下書きはせずにトレース台でそのまま線を写します。線は、絵に合わせてミリペンや、面相筆と耐水性のカラーインクなど色を使い分けて描いています。着彩は、このカードの時はPhotoshopでしましたね。
    山田:すごい。北澤さんの絵はそんなふうにしてできているんですね。

    切手の美しさをシンクロさせたポストカード

    北澤:今回の切手のモチーフに鳥を選ばれているのは、鳥が伝えるとか、運ぶといった意味を込めて、でしょうか?
    山田:そうです。鳥は幸せを運ぶとか飛躍とか、鳩は通信の象徴と言われていることもあって、ふみの日の切手には鳥がよく使われるんです。今回もその流れを受けて鳥をモチーフにしました。鳥の中でも青い鳥を選んで、届いた人もハッピーになれたらいいなと思って。そもそも「ふみの日にちなむ郵便切手」のキャッチコピーは「ふみの日だから手紙を書こう」なんですけど、昨今の社会状況では、なかなか難しいテーマだとは思うんですよ。でも、貼る時にわくわくしてもらえる切手があったら手紙を書くきっかけになるんじゃないかと思って、切手のまわりを装飾して、ちょっとおしゃれな雰囲気にしました。

    「ふみの日にちなむ切手」63円郵便切手(上)
    「ふみの日にちなむ切手」84円郵便切手(下)
    「ふみの日にちなむ切手」63円郵便切手(上)、84円郵便切手(下)/2022年7月22日発行

    山田:私は高価なプレゼントよりも、手作りのものや手書きの手紙が一番人の心の栄養になる究極のプレゼントだと思っていて。だから手紙を書いてもらうことで、手作りや手書きの文化をずっと残していきたいんですよ。
    北澤さんの絵はすごくわくわくするし、楽しくなる絵なので、北澤さんが思うかわいいポストカードを描いていただきたいです。この切手に合うものだとさらに嬉しいなと思います。
    北澤:ありがとうございます。例えば、文面に猫が上を見ている絵を描いて、宛名面に鳥の切手を貼ってカードを高速で表裏、表裏って動かすと、猫が宛名面の切手の鳥を見ているように見えるポストカードというのはどうかなーなんて考えていたんですけど(笑)。
    山田:すごいですね! それは思いつかなかった。
    北澤:ただ切手を見ると、美しいので(笑)。コミカルすぎないほうがいいかもしれませんね。この切手に縁取られた装飾がとってもきれいだから、この装飾を私なりにアレンジして、フレームとして描かせていただくのはどうかなとも思っています。その装飾と絡めて、もしかしたら切手の鳥の方向を見ている人物がいたり、猫がいたりしてもいいのかなとか。真ん中には手書きのメッセージを添えられるようにして。
    山田:いいですね、絶対かわいい。
    北澤:せっかくなので、この美しい感じをシンクロさせられたらいいなと思っています。
    山田:すごくいいと思います。それから、84円切手の余白にある装飾は、シールとしても使えるようにしたんですけど。
    北澤:じゃあ、フレームに少しスペースを開けておけば、そこに貼って遊んでいただけるかもしれませんね。ツタを描いておいて、花のシールを貼っていただくとか。それができたらすごくかわいいですね。
    山田:いいですね~。でもシールがついているのは84円切手だけなので、ご無理なさらず(コラボレーションするのは63円切手)。どちらかというと、北澤さんの世界観で描きたいと思われるものを描いていただきたいですね。
    北澤:ありがとうございます。切手に合う美しい絵を描きたいです。

    創造性が発揮できる舞台を

    北澤:たぶん、イラストレーターの大半が切手を一度は描いてみたいと考えていると思います。私ももちろんそうなんですけれども……。普通のイラストレーターが切手を描くチャンスというのはあるものなのでしょうか。今まで描かれた方はいらっしゃるんですか?
    山田:はい。玉木デザイナーが担当した「野菜とくだものシリーズ」は、波多野光さんというイラストレーターさんに描いていただき、私が担当している「絵本の世界シリーズ」は、絵本作家さんにお願いしています。私はクリエイターが、どんどんその人の創造性を発揮できる世の中である方がいいと思っていますが、絵を買ってもらいやすい外国に比べると、日本はアーティストの活躍の場がまだまだ少ないのではないかと感じています。だからイラストレーターさんが描く切手シリーズなど、みなさんが目指したいと思えるような切手の企画があればいいのになと思っています。
    北澤:いいですね〜、ぜひ実現していただけたらうれしいです。

    今後作りたい切手の構想を語る山田さん
    今後作りたい切手の構想を語る山田さん

    北澤:余談ですが……みんなが自分で文字や絵を描ける真っ白の切手があったらいいのにって昔から思っていたんですけれど、偽造防止の観点から難しいですよね。
    山田:そうなんですよ。切手は何かを書き込んだり、汚れたりすると郵便料金の支払いのために使用できないという決まりがあるので。本当はそういうことができたら楽しいんですけどね。
    北澤:そっか、やっぱり難しいですよね。あと、私は海外に時々荷物を送る時に、いろんな切手を使って絵を作る時があって。家の切手はここ、木の切手はここって複数の切手をレイアウトして街を作る、みたいな。今、マインクラフトがすごく人気だし、レゴもまた盛り上がってきているので、ゲームのように自由に絵を組み立てられる切手シートがあればいいなとも思っていました。ブロックや家、車の切手などをセットにして。かっこいい車は1万円くらい、家は5万円くらいの切手にするとか(笑)。みんながSNSで「こんなの作ったぜー!」って見せ合ったら楽しそうだと思って。
    山田:わ〜いいですね! ありがとうございます。北澤さんご自身がもし切手を描くとしたら、どんなものを描きたいですか?
    北澤:そうですね、ストーリー性を持つ切手も楽しそうだなと考えていました。いくつかの切手で展開される文字のない絵本のような……。あとは切手で4コママンガとか。大切な人にはオチのコマで送るとか。
    山田:いつか、お客さまがいろんな作家さんの作品に触れられるような切手ができたらいいなと思っています。もし、その企画が実現できたら、その時はぜひ北澤さんにお願いしたいです。
    北澤:わー、やった〜。ありがとうございます。実現できたら嬉しいです!

    完成したポストカードはこちら!
    第3回ポストカード
    「ふみの日にて」

    第3回ポストカード「ふみの日にて」

    ポストカードはこちらからダウンロードできます。
    https://andpost.jp/project/tegami.html



    第3回切手
    「ふみの日にちなむ郵便切手」
    2022年7月22日発行

    63円郵便切手(シール式)
    63円郵便切手(シール式)
    84円郵便切手(シール式)
    84円郵便切手(シール式)

    全国の郵便局の郵便窓口、
    または「郵便局のネットショップ」にて、7月22日から発売開始!
    https://www.post.japanpost.jp/kitte/collection/archive/2022/0722_01/

    協力:東京イラストレーターズ・ソサエティ、日本郵便
    構成・文:平岩茉侑佳