Home / Project / #手紙にしよう

BACK

#手紙にしよう

  • 2022.8.17

  • 第4回#手紙にしよう対談

  • #手紙にしよう

    「切手デザイナー×イラストレーター」トークセッション
    イラストレーターが訪ねる
    切手と手紙の世界

    「心に“ずしん”とくる、手書きの手紙」

    第4回 心に“ずしん”とくる、手書きの手紙

    切手デザイナー
    山田泰子
    ×
    イラストレーター
    秋山 花

    月ごとに発行される切手のパートナーとなるポストカードを制作する企画「#手紙にしよう」。
    第4回の切手は、2022年8月に発行される「秋のグリーティング」。
    切手を作った山田泰子さんと、ポストカードを描く秋山 花さんが、
    切手や手紙への想い、お互いの仕事のこと、ポストカードのイメージなどを語り合いながら、ポストカードを完成させていく様子をレポートします。
    ページの最後で、完成したポストカードもご紹介。ぜひダウンロードして、手紙を書いてみませんか。

    〜PROFILE〜

    山田泰子(やまだ やすこ)

    日本郵便切手デザイナー。京都府の郵便局の集配社員として入社後、2014年に切手デザイナーとなる。担当しているシリーズは「絵本の世界シリーズ」(2017年〜)。その他担当した切手は、「秋のグリーティング」(2021年)、「日本・モンゴル外交関係樹立50周年」(2022年)など。

    秋山 花(あきやま はな)

    イラストレーター。1984年生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。多摩美術大学大学院博士課程前期グラフィックデザイン研究領域修了。書籍、広告、雑誌、Web、パッケージ、CD、新聞等でイラストレーションを手がけ、国内、海外での展示で作品を発表。ニューヨークADC賞銀賞など、国内外で多数受賞。著書に作品集『"IHATOV" FARMERS' SONG』(PLANCTON、2009年)、絵本『ソックンキーのおくりもの』(講談社、2010年/造本装丁コンクール審査員奨励賞)などがある。
    http://www.hanaakiyama.com

    「切手の博物館」はイラストレーションの宝庫

    秋山 花さん(以下、秋山):私は2008年に多摩美術大学のグラフィックデザイン学科の大学院を卒業してから、フリーランスでイラストレーションの仕事をしていまして、今に至ります。たまたま実家にあった『ザ・ニューヨーカー』(コンデナスト社)という雑誌が思春期のころからすごく好きで、そこで見たアメリカやヨーロッパのイラストレーションに憧れてこの道に進みました。切手の絵も大好きで。実家がある目白の「切手の博物館」にもよく行っています。「切手の博物館」ってイラストレーションの宝庫なので、飽きることなくいつまでも見ていられるんです。
    山田泰子さん(以下、山田):「切手の博物館」に行かれるんですか。
    秋山:仕事で行き詰まった時にふらっと立ち寄っていまして。ちょうど先日も行ったら、「ありがとう!郵便」展が開催中でした(現在は終了しています)。手紙を書いて、ポストに入れて、それを配達するという、郵便に関連する絵柄が使われた世界の切手が展示されていて、とてもよかったです。
    山田:いろんな国の切手が展示されているので、世界のアートを吸収できますよね。
    秋山:そうですよね。それで、ちょうど第3回の対談で北澤平祐さんが「白い切手があったらいいな」というお話をされていましたけど、私、持っているんです! 白い切手。日本ではなくスイスの切手ですが。
    山田:すごい! それは知りませんでした。ぜひ見せてください。

    スイスの白い切手。「HELVETIA(ヘルべティア)」
    スイスの白い切手。「HELVETIA(ヘルべティア)」は古代ローマ時代のスイス地域の国号。
    公用語が4つあるスイスでは「スイス」の表記がそれぞれ異なるため、「HELVETIA」を採用しているそう

    秋山:キャンバス地の切手です。おしゃれですよね。
    山田:日本でも、2016年にG7伊勢志摩サミットの開催を記念して、切手用紙にシルクを貼り合わせた切手は作ったことがあるんですが、キャンバス地の切手は初めて見ました。いいですね〜。教えていただきありがとうございます。
    秋山:前回の記事を読んで、思わず持ってきてしまいました(笑)。

    言葉から始まる作品づくり

    山田:実は私、秋山さんが描かれたイラストを掲載した雑誌の切り抜きを大切に持っているんです。色は落ち着いているのにインパクトがあって、素敵だなと思って。だからどんなふうに描かれているのか、ずっと気になっていました。
    秋山:すごい! ありがとうございます。今日は作品をいくつか持ってきました。
    山田:わ〜、かわいい。
    秋山:この春から、私が描いた額入りのポスターの販売が「IDEE」と「無印良品」で始まりまして、そのポスターと原画をお持ちしたので、よかったら見てみてください。
    山田:原画も見せていただけるんですか、うれしいです。

    作品について語り合う山田さんと秋山さん
    作品について語り合う山田さんと秋山さん

    秋山:私の制作方法はアナログなので、山田さんはどんな環境で制作されているのかなと私も気になっていました。
    山田:アナログということは、デジタルは全く使わないんですか?
    秋山:納品がデジタルの場合に、原画をスキャンして色の補正をするくらいですね。
    山田:ええ〜っ、すごい! みなさんiPadなどを使って描いているのかと思っていました。1枚の絵が完成するまでにどれくらい時間がかかるんですか?
    秋山:ラフが決まれば、早くて2、3日くらいでできると思います。
    山田:細部まですごく丁寧で、微妙な色合いが素晴らしい。このような緑色のグラデーションを表現するのは難しいですよね。
    秋山:でも、緑って深く色が出るから、描いていて楽しいですよね。
    山田:私は緑を使うのが苦手で(笑)。例えば、植物だと葉っぱによって全然色が違うので、塗り分けが難しいんですよ。秋山さんの絵、かっこいいですね〜。
    秋山:恐縮です。私は全部アクリルガッシュで描くんですけど、スケッチを綿密にして、ビジョンをしっかり決めてから描き出すタイプで。スケッチができあがってから、頭の中で色も決めて、ぬり絵のようにどんどん色をつけていきます。心配性なので、イメージがしっかり決まってからじゃないとゴーサインが出せなくて。描き直しが怖すぎるんです(笑)。
    山田:構図がすごく特徴的でかっこいいので、いろいろ構想した上で描かれていることが伝わってきます。
    秋山:構図って絵の命ですよね。

    左上から時計まわりに、「The color of tree」、「keep on」、「It’s windy!」
    左上から時計まわりに、「The color of tree」、「keep on」、「It’s windy!」

    山田:例えばこの「It’s windy!」を描く時に、木の横に丸くて青い雲を置こうというのはどのようにして思いつくんですか。
    秋山:この絵では、「強風が来てもびくともしない木」を描きたかったんですよ。それで雲も、いわゆる“水色の空に白い雲”ではなくて、もうちょっと強い印象にしたくて青い雲にしたんです。
    山田:素敵です。なかなか普通の発想では出て来ないですね。
    秋山:いつも言葉を決めるところから始まるので、言葉のイメージに合う色、形という感じで決めていきます。
    山田:最初にテーマを決めるんですね。
    秋山:はい。だからテキストを絵にするという、イラストレーションの仕事が好きなんです。制約があるほうが進めやすいというか。
    山田:切手もルールが多いので、気持ちがわかります(笑)。
    秋山:ははは(笑)。

    “気楽に秋を”感じられるポストカード

    秋山:秋の切手というのは、日本ならではでいいですね。「切手の博物館」でも、秋の切手って他の国にはなかなかなくて。今回の「秋のグリーティング」も本当に素敵です。
    山田:今回はすごく忙しい時期に作ったので疲れ切っていて、なんとか絞り出しました(笑)。でも出し切った、やり切った感じはあります。
    秋山:そうだったんですね(笑)。どれから描いたんですか?
    山田:イロハモミジから描きました。

    山田さんが描いた秋の植物。この絵をスキャンしてパソコンに取り込み、切手に仕上げた
    山田さんが描いた秋の植物。この絵をスキャンしてパソコンに取り込み、切手に仕上げた

    秋山:最初にモミジの絵に目が行きました。鮮やかなモミジですね。実際に野山へ行って描くんですか?
    山田:モミジは、有名なお寺に行って撮った写真をもとにしています。そのほか、週末の朝の散歩で見つけたイチョウの写真などをもとに描きました。今回は秋の木と花を取り上げようと決めてから、表現方法はどうするか、植物は何をモチーフにするとよいか、試行錯誤を繰り返した結果、水彩で透明感を出しつつ、花は一部線で描くなどして、新たな表現方法にチャレンジすることにしました。花の切手は他にもたくさんあるので、似た印象にならないように気をつけて制作しています。
    秋山:なるほど、差別化を。花の切手って今までにたくさん発行されていますからね。
    山田:そうなんですよ。この後に「おもてなしの花シリーズ」という定番の花の切手も控えているので、郵便局で同時期に同じような切手が並ばないように、ということも気にしながら。
    秋山:じゃあ、毎回自分をリセットして、描き方を変えなければいけないんですか。
    山田:はい。抽象的に描いたり、線だけで描いたり、リアルな花を描いたり、けっこういろんな描き方でやっています。
    秋山:それは大変だ。どれも全然違うスタイルじゃないですか。
    山田:気持ちが乗っている時はいいんですけど、エネルギーがないとアウトプットできないから、忙しくて疲れているような時は大変です。今回の「秋のグリーティング」も、出すのがなかなか苦しかったです(笑)。

    「秋のグリーティング」63円郵便切手(左)/2022年8月24日発行 「秋のグリーティング」84円郵便切手(右)/2022年8月24日発行
    「秋のグリーティング」63円郵便切手(左)、84円郵便切手(右)/2022年8月24日発行

    秋山:でも、逆にそれが功を奏して、使う方を癒せる切手になっている気がします。苦しみが優しさに……。それこそみなさん、暑い夏に疲れて秋を楽しみにしているころじゃないですか。涼しくなるし、秋のおいしい味覚もあるし、ちょっとした「やった〜、秋になる!」という気持ちをポストカードにしたいですよね。かつ、切手のこの色は秋を感じるけど、いわゆる秋の渋い色というわけでもなく、透明感のある淡い色にされているところも活かせるとよいのかなと思いました。
    山田:そうですね、オータムカラーは意識しました。秋の色って落ち着くから好きなんです。秋山さんが「The color of tree」で使っている中間色のイメージもいいですよね。配色がまさに秋っぽくて。
    私が秋にどんな手紙を書くだろうと考えた時にも、何か特別なことを書かなくても、夏の猛暑を乗り越えて「大変でしたけどお元気ですか、秋になりましたね」って、それだけでいいなと思いました。気楽に秋を感じてもらえる手紙を出したいですね。
    秋山:なるほど、“気楽に秋を”。いいワードをいただきました。
    山田:私が好きで持っていた秋山さんの絵には木の幹が並んでいるんですが、その間にメッセージを書けるようにするのもいいかもしれませんね。
    秋山:切手にも木の枝が描かれているので、ポストカードにも要素を入れられたらいいですね。ぜひ、そのアイデアを。
    山田:いや、でも私の案は気にせずに、秋山さんが思う秋のポストカードを描いていただきたいです。秋山さんの絵がすごく好きなので、どんなポストカードになってもうれしいので。

    時代背景や物語を感じられる手紙モチーフ

    秋山:ここ数年、手紙を書く機会が少なくなっているなと思っていたらコロナ禍になって、手紙の重みをすごく感じるようになりました。メールですぐに連絡を取れるような子や、遠くに住む息子の友人から届いた手紙が、“ずしん”と心にきて。手書きの文字を読んでいると、感情みたいなものがダイレクトに伝わってくるんですよね。しかも手紙って突然来るので、すごいサプライズで。うれしくて心が震えて、自分も手紙を書きたくなって、「手紙、どんどんください!」という気持ちに(笑)。この2年間で「手紙」というワードが大きくなっていったことで、手紙モチーフの作品が増えました。

    「A green Letter」。「IDEE」オンラインショップなどで販売中
    「A green Letter」。「IDEE」オンラインショップなどで販売中

    山田:『ザ・ニューヨーカー』が好きでご覧になっていたという影響もあるのでしょうか、色もおしゃれですね。
    秋山:『ザ・ニューヨーカー』にも、年代ごとに手紙をモチーフにしたイラストレーションの表紙があるんですが、手紙に対する温度感が時代ごとに違っていておもしろいです。1920〜30年ごろは手紙で連絡を取り合うのが主流の時代だったので、配達する手紙が多すぎて困った郵便配達員が「オーマイガー」と嘆いている絵とか、数十年経つと、戦争に行かれている方が家族に手紙を書いている絵とか。手紙をモチーフにしたイラストレーションを通して、時代背景や物語を感じられるので、すごく素敵なんですよね。それをずっと見ていたから、手紙や切手はいいものだという印象が自分の中にあって、絵にしているのかもしれません。
    山田:手紙モチーフ、いいですね。今回のポストカードに出現することもあるのでしょうか?
    秋山:いいですね、考えてみますね。
    山田:いろんなお話を伺って、ポストカードの完成がますます楽しみになってきました。ありがとうございます。
    秋山:こちらこそ。ありがとうございました!

    完成したポストカードはこちら!
    第4回ポストカード
    「秋の時間」

    第4回ポストカード「秋の時間」

    ポストカードはこちらからダウンロードできます。
    https://andpost.jp/project/tegami.html



    第4回切手
    「秋のグリーティング」
    2022年8月24日発行

    63円郵便切手(シール式) 84円郵便切手(シール式)
    63円郵便切手(シール式)
    84円郵便切手(シール式)

    全国の郵便局の郵便窓口、
    または「郵便局のネットショップ」にて、8月24日から発売開始!
    https://www.post.japanpost.jp/kitte/collection/archive/2022/0824_01/

    協力:東京イラストレーターズ・ソサエティ、日本郵便
    構成・文:平岩茉侑佳