Home / Project / #手紙にしよう

BACK

#手紙にしよう

  • 2022.10.19

  • 第5回#手紙にしよう対談

  • #手紙にしよう

    「切手デザイナー×イラストレーター」トークセッション
    イラストレーターが訪ねる
    切手と手紙の世界

    「経験と情熱を以て、切手界に新風を吹き込む」

    第4回 心に“ずしん”とくる、手書きの手紙

    切手デザイナー
    中丸ひとみ
    ×
    イラストレーター
    吉實 恵

    月ごとに発行される切手のパートナーとなるポストカードを制作する企画「#手紙にしよう」。
    第5回の切手は、2022年10月に発行される「おもてなしの花シリーズ 第19集」。
    切手を作った中丸ひとみさんと、ポストカードを描く吉實 恵さんが、
    切手への想いや、お互いの仕事のこと、ポストカードのイメージなどを語り合います。
    ページの最後で、完成したポストカードもご紹介。ダウンロードして、手紙を書いてみませんか。

    〜PROFILE〜

    中丸ひとみ(なかまる ひとみ)

    (株)サンリオにてグリーティングカードデザインを長年担当した後、2007年日本郵政公社(当時)入社。現在は日本郵便株式会社 切手・葉書室専門役としてぽすくまデザイン及び切手デザイン、手紙振興を担当。代表作として「2010年日本APEC」(2010年)「おもてなしの花シリーズ」)(2014年〜)日本郵便のキャラクター「ぽすくま」のデザインなどがある。切手以外の関連グッズのデザインも多数手がける。

    吉實 恵(よしざね めぐみ)

    イラストレーター。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。広告代理店にデザイナーとして勤務後独立。主な仕事に是枝裕和監督作品「歩いても歩いても」「海よりもまだ深く」「いしぶみ」のポスター、くるり「songline」CDジャケット、映画ドラえもん「のび太の月面探査記」ポスター、湖池屋ポテトチップスのパッケージ、JR東日本PR誌「トランヴェール」表紙等。主に油彩、時々アクリル絵具で描いています。TIS会員。
    https://www.yoshizane.com

    花の切手、誕生ストーリー

    中丸ひとみさん(以下、中丸):私は日本郵政公社から民営化して日本郵便になる時に、民間企業から来たデザイナーなんです。だから切手デザイナーになって10数年経つんですけど、今回の対談のテーマになっている切手「おもてなしの花シリーズ」の前には、「季節の花シリーズ」や「ふるさとの花」、ほかにも各種記念切手や、私が作った「ぽすくま」、ムーミン、ディズニーなど、いろんな切手を担当してきました。

    吉實 恵さん(以下、吉實):歴史がありますね。
    中丸:過去の切手を改めて見返しながら、自分でも「結構やったな〜」と思って(笑)。私はもともとサンリオという会社でグリーティングカードのデザイナーを20年以上していて、その時に「女性が使う切手が少ない」、「自分が作ったグリーティングカードに貼りたい切手がない」と思っていたんですよ。植物の切手はたくさんあるけれど、ちょっと図鑑っぽい雰囲気の堅い切手が多かったので。だから入社して「女性のお客さまを意識した花の切手を作った方がいい」って社内でプレゼンテーションして、「ふるさとの花 第1集」という切手を作りました。それが好評でたくさんの方たちに購入していただけて、今に至ります。

    左:「ふるさとの花 第1集」80円郵便切手/2008年7月1日発行 右:「2010年日本APEC」80円郵便切手/2010年6月4日発行
    左:「ふるさとの花 第1集」80円郵便切手/2008年7月1日発行 右:「2010年日本APEC」80円郵便切手/2010年6月4日発行

    中丸:会議を開催する日本国内の12都市の花をテーマにした記念切手「2010年日本APEC」も、私の代表作になりましたね。それまではシート全体に絵柄が行き渡る切手ってなかったので、お客さまにとても喜ばれました。

    吉實:これだけたくさんの切手の絵をご自分で描かれて、シートのデザインもされて、切手デザイナーってすごいですね。
    中丸:いやいや、諸先輩方はもっとすごいですからね。今回の「おもてなしの花シリーズ」は、「季節の花シリーズ 第9集」(未発行)の絵を描き始めた頃に、急遽作ることになりました。なぜかというと、2014年4月に消費税が5%から8%に上がることが決まって、すべての切手の金額を変えなきゃいけなくなったんですよ。それで「普通切手と同じように使える新しい花の切手を急いで作ろう」と会社の決定があって、普通切手と同じサイズの「おもてなしの花シリーズ」を作りました。タイトルも自分で決めたんですけど、東京五輪を誘致するためのプレゼンテーションで話題になった「お・も・て・な・し」をみなさん思い出されるみたいですね。

    人が使うことで完成する商品

    吉實:切手にする花は、種類も中丸さんが決めるんですか?
    中丸:もちろん。「おもてなしの花シリーズ」は春と秋に発行しているので、秋に出す切手は、秋から次の春までに使える花を選んでいます。グリーティングカードを作っていた頃と大きく違うのは、切手という商品として絵が正しくなくてはいけない、ということですね。
    吉實:植物学的に見て正しい絵ですね。
    中丸:そうそう。いつも図案考証をしていただいている邑田 仁先生と飯塚克身先生に、私が選んだ花をお伝えして、さらに先生からご推薦のあったものも加えて、それから絵を描いて、先生方に雌しべ、雄しべの角度から葉っぱの裏側まで全部チェックしてもらって、“植物学的に正しい”というお墨付きをもらって、やっと発行できます。

    「おもてなしの花シリーズ 第19集」63円郵便切手(左)/2022年10月26日発行 「おもてなしの花シリーズ 第19集」84円郵便切手(右)/2022年10月26日発行
    「おもてなしの花シリーズ 第19集」63円郵便切手(左)、84円郵便切手(右)/2022年10月26日発行

    吉實:こういう絵って、花をちゃんと見た上で、見た目通りというわけでもなく、理解して描かないといけないじゃないですか。
    中丸:そうなんです、さすが! 私は「現物を見ないとその向こう側まで理解できない」っていつも思っているんですよ。
    吉實:茎と花の繋がりや、垂直や平行がちゃんとしていないと嘘っぽくなっちゃうし、“秩序がちゃんとしているから美しい”というところもありますよね。でも、切手として見た時にレイアウトも美しくないといけないから、整合性を取るのが難しいだろうなと思いながら見ていました。
    中丸:私は図鑑みたいな切手にはしたくなかったの。正しくは描くけれども、どなたにも好まれるようなきれいな切手を作りたかったし、私は切手のようなパーソナルな商品は、押し付けがましくしたくないんです。その方がみなさん使いやすいと思っているから。絵もレイアウトも1歩手前ぐらいのところでやめて、ちょっとした余白や余韻を残すようにしています。切手もグリーティングカードも、人が使うことで完成すると思っているので。

    日本郵便を代表するキャラクター「ぽすくま」の生みの親でもある中丸さん
    日本郵便を代表するキャラクター「ぽすくま」の生みの親でもある中丸さん

    花言葉と香りにも想いを込めて

    吉實:私の場合は油彩とアクリル絵具で描いているんですけど、仕事によって結構がっちり描いた方がいい時と、もう少し抜けがあるというか、控えめの方がいい時があるので、使い分けている感じです。
    中丸:吉實さんは水彩で描かれているのかなと思っていましたけど、そうじゃないんですね。
    吉實:そうですね。挿絵の仕事はアクリル絵具を使って水彩っぽく描くことが多いです。
    中丸:挿絵のお仕事はいつからされているんですか?
    吉實:挿絵はほかの仕事に比べると新人も使ってもらいやすいので、イラストレーションの仕事を始めた2004年頃からやっています。

    アクリル絵具を水で薄め、水彩のようなタッチで描いている吉實さんの絵
    アクリル絵具を水で薄め、水彩のようなタッチで描いている吉實さんの絵

    中丸:私は挿絵画家になりたかったんですよ。
    吉實:そうなんですか!
    中丸:時代小説のね。挿絵画家の伊藤彦造や、高畠華宵、小村雪岱が好きで。前の会社では海外のお客さま向けに美人画のグリーティングカードなども作っていました。
    吉實:今のお話を聞いて、中丸さんはいわゆる画家的などしっとした絵よりも、一般の人が見たり、使ったりする絵がお好きなのかなって思いました。
    中丸:その通りなんです。私は絵だけ描くというタイプじゃないので、商品の企画もしますしね。
    吉實:私もそのタイプだと思います。美術館にわざわざ行って観る絵というよりも、生活の中に勝手に入ってくる絵、みたいな。美術が好きな人じゃなくても、切手って生活の中に入ってくるじゃないですか。そしてそれを受け取った人の心が潤う。中丸さんはそんな花の絵を描かれる方だなと思いました。

    絵具を使って絵を描くおふたり。お互いの制作スタイルについて語り合う
    絵具を使って絵を描くおふたり。お互いの制作スタイルについて語り合う

    吉實:私が中学生の頃、病院に入院している子どもたちのためにクリスマスカードを作って送るという学校行事がありました。その時に、人に使ってもらう、プレゼントするっていいなと思って。イラストレーターになりたいなっていうのは、そこから始まっているんです。だから中丸さんがグリーティングカードを作る仕事をしていたと聞いて、すごくうらやましく思いました。楽しい仕事ですよね。
    中丸:そうですね。やっぱり使ってもらってこそ意味があると思うので。ちょっと現実的な話になるけど、お見舞いのカードには鉢植えの花は描かないようにしていたし、切手の花も全部、花言葉や香りの効能まで調べて描いているんですよ。
    吉實:なるほど、不吉な花言葉じゃないように。
    中丸:そうそう。今回の「おもてなしの花シリーズ 第19集」の84円切手で描いたローズマリーの香りは落ち込んだ気分を活性化させるし、アセビの花言葉は「ふたりで旅をしよう」なんです。なかなか旅をしにくい世の中なので、これを貼って「お便りの旅をどうぞ」という想いを込めて。
    吉實:切手もグリーティングカードも、自分の表現として使えますよね。受け取った人に「この人はこの切手を選んでくれたんだ」と思ってもらえるから。
    中丸:私ももともと手紙を書くのが好きなので、「ふるさとの花」で47都道府県の花の切手を作った時には、送る相手の出身地の花の切手を貼って送りましたもん。そこに気づいてもらえると、手紙の内容に加えて二重に喜ばれるので、いいですよね。

    「おもてなしの花シリーズ 第19集」の原画。左から時計まわりに、バラ、センリョウ、アセビ
    「おもてなしの花シリーズ 第19集」の原画。左から時計まわりに、バラ、センリョウ、アセビ

    パーソナルな商品には手描きの絵を

    中丸:グリーティングカードのデザイナーだった頃に感じていたのは、ノートスペース(メッセージを書くスペース)を取っているカードの方が売れるということですね。全面に絵があってその上に文字を書くタイプのカードもありますけど、絵の上に文字を書くのって勇気がいるので。ここが絵で、ここに文章を書いて、としてあげた方が親切だと思います。
    吉實:私も文字を書くスペースがある方が書きやすいです。見た時にもきれいですよね。書く文字も少なくて済むので、手紙を書くのが苦手な人には「全部文字で埋めなきゃいけない」というプレッシャーがなくていいかもしれない。あと、今回の「おもてなしの花シリーズ 第19集」はお花をテーマにした切手なので、ポストカードはこれから迎えてくれる家や庭などを、なるべく空間を広く取って、文字を邪魔しないように描きたいなと思いました。
    中丸:それがいいと思います。私もグリーティングカードを作っていた時は、切手を作る時と同じで、押し付けがましくない絵を描くようにしていたので。
    吉實:ポストカードは誰が使うのかとか、どんな文字が載ってもいいようにとか、やっぱりそういうことが1番大切ですよね。

    今回制作するポストカードのイメージについて語る吉實さん
    今回制作するポストカードのイメージについて語る吉實さん

    吉實:お話を伺っていて気になったんですけど、デザインはパソコンでされるからオフィスの雰囲気でもできるとして、絵具で根詰めて描く場合は、オフィスだとみなさん描きにくくないのかなって。
    中丸:描きにくいですよ。でも、1から10まで全部手描きなのはどうなのかな。途中まで描いてパソコンに取り込んで作業しているデザイナーもいるので。
    吉實:そうなんですか。
    中丸:レイアウトはMacでしますけど、私はパーソナルな商品は描き原稿が1番いいと思っているので、絵そのものは絶対に手描きって決めているんです。切手もグリーティングカードも、パーソナルな商品は温かみのあるものがいいと思っています。今の時代ね、一般の方でもパソコンのいろんなソフトを使って絵を描けるようになっているから、ちょっといやらしい言い方をすると「自分でできるものにお金を出さないですよ」って私は思うの。吉實さんもそうだけど、プロが手で描いたものって、ほかの人には描けないものだから選んでもらえるところもあると思います。
    吉實:今の話を聞いて、感動しました。そう思いたいんですよ、やっぱり。作る方の気持ちが揺らいでそこを疑っちゃうとダメだと思うんですけど、自信が持てなくて疑うことってあるんですよ。でも、これだけやっている方が「そうです」って断言してくれたから、すごくうれしい。とても勇気づけられました。ありがとうございます。

    完成したポストカードはこちら!
    第5回ポストカード
    「草原の家」

    第5回ポストカード「草原の家」

    ポストカードはこちらからダウンロードできます。
    https://andpost.jp/project/tegami.html



    第5回切手
    「おもてなしの花シリーズ 第19集」
    2022年10月26日発行

    63円郵便切手(シール式) 84円郵便切手(シール式)
    63円郵便切手(シール式)
    84円郵便切手(シール式)

    全国の郵便局の郵便窓口、
    または「郵便局のネットショップ」にて、10月26日から発売開始!
    https://www.post.japanpost.jp/kitte/collection/archive/2022/1026_01/

    協力:東京イラストレーターズ・ソサエティ、日本郵便
    構成・文:平岩茉侑佳