Home / Project / #手紙にしよう

BACK

#手紙にしよう

  • 2023.2.1

  • 第7回#手紙にしよう対談

  • #手紙にしよう

    「切手デザイナー×イラストレーター」トークセッション
    イラストレーターが訪ねる
    切手と手紙の世界

    「切手デザイナーとイラストレーターの共通点」

    「切手デザイナーとイラストレーターの共通点」

    切手デザイナー
    星山理佳
    ×
    イラストレーター
    いとう瞳

    月ごとに発行される切手のパートナーとなるポストカードを制作する企画「#手紙にしよう」。
    第7回の切手は、2023年2月に発行される「春のグリーティング」。
    切手を作った星山理佳さんと、ポストカードを描くいとう瞳さんが、
    切手への想いや、お互いの仕事のこと、ポストカードのイメージなどを語り合います。
    ページの最後で、完成したポストカードもご紹介。ダウンロードして、手紙を書いてみませんか。

    〜PROFILE〜

    星山理佳(ほしやま あやか)

    日本郵便切手デザイナー。東京造形大学卒業後、平成10(1998)年に郵政省入省。担当した切手は「海のいきものシリーズ」(2017年~)「自然の記録シリーズ」(2021年~)「沖縄復帰50周年」(2022年)など多数。12年越しの羊とマフラーを描いた年賀葉書(2003、2015)が有名。

    いとう瞳(いとう ひとみ)

    イラストレーター。千葉県出身。武蔵野美術大学油絵学科版画コース卒業後、PALETTE CLUB SCHOOL受講。以後、広告、書籍装画、Webなどを中心に幅広く活動中。主な仕事に『小さいおうち』(中島京子 著、文藝春秋)の装画・映画宣伝美術、JUJU「ユーミンをめぐる物語」(Sony Music)ジャケット・ツアーグッズ等。エージェントルモンド所属。
    hitomiitoh.com

    “春”をテーマに自由に表現した切手

    星山理佳さん(以下、星山):事前にいとうさんの作品を拝見しましたが、本の装丁をたくさん手がけていらっしゃるんですね。「あ、この本知ってる!」と思ったものもいくつかあって、いとうさんが描いていらしたんだと知って嬉しくなりました。
    いとう瞳さん(以下、いとう):そうなんです。文芸の仕事はわりとやっていますね。
    星山:こちらの絵は、お仕事で何かお題があって描かれたものなんですか? それとも、ご自分の作品として?

    いとうさんが仕事のためにアクリル絵具で描いた作品2点
    いとうさんが仕事のためにアクリル絵具で描いた作品2点

    いとう:この2点は仕事でした。右は連載の1月号だったので、電車の始発をイメージしています。朝日に照らされてできた長い影と、電車が車庫から出ていく感じを描いたものですね。
    星山:わ〜、素敵な発想ですね。
    いとう:左は去年の夏に発行された辻村深月さんのミステリー小説『嘘つきジェンガ』(文藝春秋)の装画です。ジェンガをテーマに、小説に出てくるモチーフを入れ込みました。でも、小説のオチがバレてはいけないので、内容がわかるようなわからないような、“寸止め感”は意識していますね。
    星山:小説の装画は、やっぱり全部読まれてから描かれるんですか?
    いとう:そうです。プリントされた原稿がどさっと届くか、データだったらPDFが送られて来るので、読んでから打ち合わせをしています。切手の場合はどのように進めるんですか?
    星山:来年の何月何日に何という名前の切手が出る、ということが、前の年に1年分決まるんです。それをもとに事務の社員が中心となって「あなたはどれをやりたい?」って私たちにヒアリングしながら振り分けてくれます。
    いとう:振り分け作業が入るんですね。
    星山:はい。そこで決まった1年分の仕事を自分で管理しながら作っていきます。ひとつの記念切手に対して、だいたい10ヵ月くらい前から動き始めるんですけど、どんなコンセプトでいくかということをコンセプト会議で諮ってから、1、2ヵ月後にはデザインを決めなければいけないというスピード感なので、作画期間にあまり余裕はないんです。ゆっくり描きたい場合は、早めにコンセプトを会議に諮らないといけませんね。
    いとう:描く時間はなるべく欲しいですよね。
    星山:そうなんです。ただ、決まっているのは切手のタイトルだけなので、具体的に何を描くかということは、切手デザイナーが比較的自由に決めることができます。省庁と打ち合わせをしながら決めていく記念の切手もありますけど、今回の「春のグリーティング」のような切手ですと、“春”というテーマだけで、各デザイナーが好きに描かせてもらえるので。

    「春のグリーティング」63円郵便切手(左)/2023年2月8日発行 「春のグリーティング」84円郵便切手(右)/2023年2月8日発行
    「春のグリーティング」63円郵便切手(左)、84円郵便切手(右)/2023年2月8日発行

    いとう:“春”って大きなテーマですよね。
    星山:だからある意味やりがいもあるし、難しくもあるんですよね。
    いとう:毎年やっていると、どんな切り口で描こうかという自分の中のアイデアが……(笑)。
    星山:だんだん枯渇していきます(笑)。ただ、「春のグリーティング」を毎年同じ切手デザイナーが担当するわけではなく、全部で8人いる切手デザイナーが交代で担当するので、「去年あのデザイナーはあんな表現をしていたな、じゃあ私はこうしてみようかな」と、ある程度自由に自分の世界を出せるので、やりがいはありますね。
    いとう:切手って偽造されてはいけないものだというイメージがあるので、絵柄が細かくないといけないとか、いろいろ決まりがあるのかなと思っていつも拝見していたんですけど、自由度が高いんですね。
    星山:昔はより厳しい制約がありました。絵柄にも描いていいもの、切手には好ましくないものがあって。印刷も、昔は国立印刷局というお札を刷っているところがずっと刷っていたんですけど、近年は国際競争入札になって、海外の印刷会社も参入するようになりました。

    “セット感のワクワク”を届けたい

    星山:いとうさんは、美大では版画を専攻されていたそうですね。
    いとう:そうなんです。木版画、銅版画、リトグラフ、シルクスクリーンの4版種ある中で、木版画を制作していました。
    星山:いとうさんの作品を拝見したあとに版画を専攻されていたと知って、「ああ、なるほど!」と思いました。
    いとう:そうですか、何か繋がりましたか?
    星山:はい。合点がいきました。世界観がすごくはっきりされていて、絞った色をお使いになっていたり、直線的な表現をされていたりするので。

    いとうさんが描かれたオリジナル作品
    いとうさんが描かれたオリジナル作品

    いとう:たとえば浮世絵だと、細い髪の毛や輪郭線を掘ったアウトライン用の黒の版を最後に乗せるじゃないですか。学生時代に木版画をやっていた時は、自分も黒の版を最後にびしっと乗せていたんですけど、あの版を摺るひとつ手前の状態がいいなと思って。未完成っぽさがありながらも考えられている、曖昧なあの状態が自分の中でちょうどよかったというか。絵でそれを表現しようと思って、描くようになりました。だから版画も絵も、考える工程で繋がっているところがあるんですよね。
    星山:そうなんですね。国立印刷局で切手を刷る時は、よくあるプロセス分解のオフセット印刷ではなく、特色6色を使ったグラビア印刷なので、昔上司から「黒の版で骨格を作って色を重ねていくように」と教わったことを思い出しました。まさに版画の世界ですよね。
    いとう:本当ですね。私も星山さんの過去の切手を拝見していて、平面のフォルムを色面で考える絵の作り方をされているのかなと思っていました。私がそうなので、勝手に共通点を感じていて。でも今回の「春のグリーティング」では、水彩のタッチで描かれた花の真ん中に、どすんと四角い面を入れていますよね。どこから出てきたアイデアなのかなあと気になっていたんです。
    星山:私、実はいまだに自分の表現スタイルを模索中なんですよ。1番好きなのは、アクリル絵具で生き物を細密に描くことなんですけど。

    「自然との共生シリーズ~日本の希少野生動植物~」の切手と原画
    「自然との共生シリーズ~日本の希少野生動植物~」の切手と原画

    いとう:わ〜、すごい。この絵の切手が貼ってあったらかわいいですね。これは切手になったんですか?
    星山:はい。「自然との共生シリーズ~日本の希少野生動植物~」として2011年から2014年にかけて4回出しました。
    いとう:原画はいつもこのサイズで描かれているんですか?
    星山:そうですね。昔は切手の600%で原画を描くようにと言われていたので、だいたいB5ぐらいのサイズで描いていました。この時は800%で描いたかな。でも、好きだからといってこの表現ばかりというわけにもいかないので、「やってみたい!」と思ったら、ありとあらゆる表現方法を試すんです。今回は、パッケージの世界のようなものを表現したいと思ったので、真ん中にどんっと面を配置してみました。そうすることで、水彩画の花が目立たずに無機質な印象になるので、誰もが気楽に使える切手になるかな、という想いがあって。

    「春のグリーティング」に込めた想いを語る星山さん
    「春のグリーティング」に込めた想いを語る星山さん

    いとう:パッケージ感、わかる気がします。切手を貼る時に「この人にはこの絵の切手を」って無意識に考えるじゃないですか。手紙を送る相手にギフトを贈るようなイメージがあるので、切手って最後のラッピング的な要素のひとつという感覚がありますね。子どもってシールや封筒、便箋が全部セットになっているレターセットにテンションが上がったりしますけど、大人になってもそういう感覚ってあると思うので。
    星山:まさに今回の「#手紙にしよう」の企画もそういうことだと思うんですよね。切手に合わせてポストカードを作っていただくという“セット感のワクワク”を提供しようという。
    いとう:そういうことですね。
    星山:そのあたりをぜひ、いとうさんにお願いしたいです。

    立場は違っても、仕事は同じ

    いとう:「春のグリーティング」を見た時、ブーケを上から見ているような感じがしました。なので、ポストカードはブーケに添える絵のイメージでいくのか、パッケージの感覚でいくのか、真ん中の数字の雰囲気を出していくのか……。あとは色ですよね。切手に使われている黄色、グリーン、ピンク、ブルーを活かすにはどんな絵柄にするのがいいかというところから考え始めると思います。
    星山:嬉しい。楽しみです。今日は参考になるかなと思って、「春のグリーティング」の原画もお持ちしました。
    いとう:わ〜、綺麗。
    星山:パソコン上で構成することを念頭に、こんな風にバラバラに描いてしまっていて。
    いとう:切手と原画を見比べると、印刷の色の再現力が高いですね。原画の通りの色で。これは2種類の違う桜を描いているんですか?
    星山:そうです。描いたけど不採用にするものもいっぱいあります。こちら(写真下)は、「春のグリーティング」のコンセプト会議に出した2案のうち、採用されなかった方の案ですね。

    「春のグリーティング」63円郵便切手の原画
    不採用になったデザイン。黒板塗料の上からチョーク風にミモザと桜の絵を描いている
    上/「春のグリーティング」63円郵便切手の原画
    下/不採用になったデザイン。黒板塗料の上からチョーク風にミモザと桜の絵を描いている

    いとう:採用された案とイメージが全然違う! カフェの看板スタイルですね。手描き感があってすごくかわいいです。
    星山:ありがとうございます。こちらは若干暗い印象があるという意見が出たので、もう一方の案に決まりました。
    いとう:候補はあえて対局なイメージのものを出すんですか?
    星山:それはありますね。いつもバリエーションのある案を出したいと思っているので。選ぶ楽しさを相手に提供したいし、私自身もプレゼンを楽しみたいんです。
    いとう:全然違う案を出すのって大変じゃないですか?
    星山:そうですね。でも、あれもこれもって、やりたいことがどんどん出てきてしまって。
    いとう:どの表現方法でも完成度が高いところがすごいです。
    星山:でも、さっきお話しした自分の表現スタイルが決まっていないというコンプレックスもあるんですよね。だからご自身の絵の世界を構築されているいとうさんが、すごくうらやましい。
    いとう:画面の中でレイアウトするという意味では一緒だし、星山さんの描き方は生け花みたいで素敵だと思いますよ。
    星山:生け花ですか、たしかにそうですね。
    いとう:見栄えを調整しながら花を1本ずつ配置したり、葉っぱの位置を考えたりするのって、花束を作るように個性の出る表現で創作的だと思います。

    イラストレーターとして書籍の挿画や映画の宣伝ビジュアル、CDジャケットなど、幅広いジャンルの仕事を手がけるいとうさん
    イラストレーターとして書籍の挿画や映画の宣伝ビジュアル、CDジャケットなど、幅広いジャンルの仕事を手がけるいとうさん

    いとう:今日はいろいろとお話を伺って、切手デザイナーさんと私たちイラストレーターは同じ仕事だということを実感しました。
    星山:ああ、嬉しい。私も、もともと絵を描くことが好きで美大に行った人間として、イラストレーターさんのお仕事にますます憧れてしまいました。
    いとう:お互い違う分野ではありますけど、描いた絵が自分から離れて印刷物になって、それを扱う人がいることを考えながら描くところは一緒ですよね。でも切手の場合は、唯一ハガキや封書に絵を貼れるお仕事で、たくさんの人が手に取るものだから、うらやましいなと思います。
    星山:お互いにうらやましいってことですね(笑)。
    いとう:そうですね(笑)。今回のお話をもとに、切手を貼った時にテンションが上がるようなポストカードを描きたいです。
    星山:ありがとうございます。楽しみにお待ちしています。

    完成したポストカードはこちら!
    第7回ポストカード
    Gift

    第7回ポストカード「Gift」

    ポストカードはこちらからダウンロードできます。
    https://andpost.jp/project/tegami.html



    第7回切手
    「春のグリーティング」
    2023年2月8日発行

    「春のグリーティング」63円郵便切手(左)/2023年2月8日発行 「春のグリーティング」84円郵便切手(右)/2023年2月8日発行
    63円郵便切手(シール式)
    84円郵便切手(シール式)

    全国の郵便局の郵便窓口、
    または「郵便局のネットショップ」にて、2月8日から発売開始!
    https://www.post.japanpost.jp/kitte/collection/archive/2022/0208_01/

    協力:東京イラストレーターズ・ソサエティ、日本郵便
    構成・文:平岩茉侑佳