#手紙にしよう
2023.3.15
第8回#手紙にしよう対談
「切手デザイナー×イラストレーター」トークセッション
イラストレーターが訪ねる
切手と手紙の世界
切手デザイナー
楠田祐士
×
イラストレーター
100%ORANGE
月ごとに発行される切手のパートナーとなるポストカードを制作する企画「#手紙にしよう」。
第8回の切手は、2023年3月に発行される「My旅切手シリーズ 第8集」。
切手を作った楠田祐士さんと、ポストカードを作る100%ORANGEのおふたりが、
切手への想いや、お互いの仕事のこと、ポストカードのイメージなどを語り合います。
ページの最後で、完成したポストカードもご紹介。ダウンロードして、手紙を書いてみませんか。
〜PROFILE〜
兵庫県生まれ。2014年に美術大学のデザイン科を卒業。
学生時代には広告デザインに加え、絵本やアニメーションなども制作した。
新卒で日本郵便株式会社に入社し、切手デザイナーとなる。
代表作に「灯台150周年」、「My旅切手シリーズ」、「美術の世界シリーズ」、
「ふみの日(2019年、2020年、2021年)」など。
及川賢治と竹内繭子の2人組。
イラストレーションを中心に、絵本、漫画、アニメーション制作などを手がける。
http://www.100orange.net/
https://www.instagram.com/kenjioikawa_100/
楠田祐士さん(以下、楠田):僕はパソコンを使って絵を描くことが多いんですが、100%ORANGEさんはどのような環境で制作されているんですか?
100%ORANGE 及川賢治さん(以下、及川):絵自体はペンや絵の具で描くんですけど、それを必ずスキャンして、パソコンである程度いじってからデータ入稿しています。はじめのころは原画のまま送ることもありましたけど、いまは全然。今回の切手もパソコンで描かれたんですか?
楠田:はい。今回の「My旅切手シリーズ 第8集」もパソコンで描きました。
及川:これはイラストのほかに、写真を使った切手もあるのかな。
楠田:あります。写真とイラストの混ぜ合わせといった感じで。
及川:最近、日曜の朝8時からNHKでやっている「小さな旅」という旅番組が好きでよく観ているんだけど、この切手を見て、その番組を思い出しました。なぜかというと、「小さな旅」に出てくるリュックサックを背負ったアナウンサーが、だいたい後ろ姿なんですよ。旅をしている人が見ている景色を一緒に楽しむためには、後ろ姿の方がいいんですよね。だから、この切手の台紙に描かれているこの人の後ろ姿がいいなあと思って。
及川:後ろ姿の絵って僕はほとんど描かないんです。このシーンを僕が描くとしたら、こっちを向いて「わーい!」ってバンザイしている絵を描いちゃう。それだと全然イメージが違うもんね。
楠田:なるほど、たしかにそうですね。
及川:自分では描かないのに、なぜか後ろ姿にすごく興味がある。台紙に描かれているこの人もリュックサックを背負っているけど、ほかの旅番組でも、出ている人はだいたいリュックを背負っているんですよ。番組を観ながら「あ、先週とは違うリュックだな」とか、リュックまで気になっちゃって。後ろ姿って旅情があるというか、後ろ姿だけが持っている雰囲気ってあると思うから。だからこの切手を見た時にも「後ろ姿のこの人、旅の雰囲気が出ていていいなあ」と思ったんですよ。
楠田:ありがとうございます。コンセプトとしては、旅先から友達に手紙を送ったり、旅のお土産として現地のポストカードにこの切手を貼って自分宛てに送ったりしてもらえたらいいね、というところから始まったシリーズなんです。だから切手を使われる方や、送られた相手の方が、後ろ姿のこの子に感情移入してくれたらいいなと思いまして。自分も旅をしている気持ちになってもらいたいというか。
及川:後ろ姿の人は自分でもあるってことか。なるほどね。
楠田:第1集の「京都」を作る時に「人がいた方がいいな」と思って、後ろ姿のこの子を描き始めました。
及川:第1集から入っていたんだ。やっぱり僕の予感は正しかったんだなあ。旅の雰囲気は“後ろ姿”なんだよね。
100%ORANGE 竹内繭子さん(以下、竹内):「My旅切手シリーズ」は、全都道府県分出るんですか?
楠田:いえ、まとめ方はいろいろなんです。うちの会社には全国に13の支社があるんですが、まずはその支社や、地域の郵便局の方などに、切手の候補地についてお伺いします。九州の方には「福岡から鹿児島まで入れて九州全県でまとめてほしい」と言われたり、北陸だったら石川県の金沢で進めることでまとまったり、いろいろですね。
及川:切手って小さいから、描くのが難しくないですか?
楠田:難しいです。パソコンだと拡大して描けちゃうから、原寸で印刷すると何を描いているかわからなくなることがすごく多くて。なので、まずはシルエットで伝わるかどうかを意識して描いています。
及川:形が大事ですよね。
楠田:そうなんです。形状がぱっと目に入るように。でも、第6集の「東北」で描いた牛タンは、けっこうつらいものがありましたね(笑)。
及川:描き分けがね〜。
竹内:難しいよね。
楠田:牛タンだけでは伝わらないので、ちゃんとテールスープもつけました。
及川:写真の切手は、プロが撮ったものを借りるんですか?
楠田:プロが撮った写真をお借りするのと、今回の「信州」はコロナの感染状況が落ち着いたタイミングで取材に行けたので。
及川:そばも食べて?
楠田:そばも食べました。
及川:味がわからないとね。猿と温泉にも……。
楠田:入りませんでした(笑)。印刷や準備に時間がかかる関係から、去年の初夏ごろに取材に行ったので、たくさんの猿が温泉に入っている冬のシーズンではありませんでしたね。
及川:猿って温泉から上がったあとはどうしているんだろうって、子どものころからの疑問があるなあ。じゃあバランスを見ながら、これはプロが撮った写真を使って、これはイラストを描いてって振り分けているんだ。
楠田:そうです。ただ、今回は松本城だけ取材時に自分で撮った写真を使っていまして。プロの方が見たら怒られるかもしれないんですけど。
及川:いやいや、映り込みもきれいで。絵も描いて、写真も撮って、デザインもしているのか。全部やるんですね。
楠田:さらに言うと、お寺に電話して掲載許諾を得たりもしています。
竹内:本当に?
及川:まじですか。
楠田:そうなんですよ。アルプスあづみの公園とか、松本市とか、善光寺とか。
及川:切手デザイナーって思っていた仕事と違うんだなあ。
楠田:どんなイメージでしたか?
及川:言われたことを言われた通りにやらなきゃいけなくて、つらい思いもしているのかなあ、なんて。
楠田・竹内:(笑)。
及川:でも話を聞くと、取材に行ったり、そばを食べたり。
楠田:やっぱり食べないとね、絵に影響するかもしれませんので(笑)。
及川:寺の大きさも行って見てみないとわからないし、その時の温度感が色に微妙に関係してくるかもしれないから、実際に行くのって大事だよね。
竹内:去年の秋に出た『エルメスのえほん おさんぽステッチ』(講談社)を作った時は、フランスにあるエルメスの工房を見に行ったよね。
及川:道具や材料、工房の雰囲気を感じられたのは大きかったから、見に行った意味があったね。見返しも、工房の机の上に革の切れ端があったのを思い出して、「あの切れ端の形がよかったな」と思って取り入れたりして。
楠田:見に行かないとわからないことですよね。
及川:そうそう。絵本で使った緑も「フランスで見た緑、きれいだったなあ」と思って、同じイメージの色にしたし。
楠田:色はどのタイミングで決めているんですか?
竹内:及川の仕事を見ていると、いつも最初に「今回は黄色い本かな」とか、色のことをよく言っている気はしますね。
及川:この時は、エルメスっぽい色を使いたいと思って、最初にオレンジと茶色だけは決めたんだよね。初めの方のページは色を絞って地味めに始めて、少しずつ緑や黄色を増やしていって、文章に合わせてだんだん楽しい感じが出るようにしました。
楠田:本当だ! すごいですね、考えられているんですね。
竹内:感性だけでできたらいいんだけどね。
及川:最近はそういうわけにもいかないから、わりと計算してるよね。
及川:建物も食べ物も人間も、全部同じ気持ちで描けますか?
楠田:うーん、本当は人を描くのが一番好きなんです。漫画が好きで、学生時代は人ばかり描いていたので。2019年から2021年にかけて作った「ふみの日にちなむ郵便切手」では、切手の中に人を入れました。
及川:この切手もいいじゃない。でもこれは、人を描く時と同じ愛情で建物や動物が描かれている感じがするね。かわいいなあ。何でも描けるんですね。
楠田:何でも描けるというか、定まっていないという言い方もできるかもしれません(笑)。
及川:いや、僕もいろんなタッチで描いたりするし。イラストの先生をした時に生徒から「いろいろ描けちゃって悩んでいるんです」って言われたことがあるんだけど、「いろんな表現をしても、芯があれば全然構わないんじゃない」って、その生徒にも、自分にもいつも言っていて。芯がブレるとさすがに自分がわからなくなるけど、凛とした何かがあれば、タッチが違っても見る人は意外と気にしてないっていうかさ。
竹内:たとえばうちの場合だと、最初にふたりでどんなタッチで描くか決めてから及川が描くんですけど、楠田さんは自分でタッチを決めているんですか?
楠田:基本的には僕とプランナーという立場の人とふたりでやっているので、企画が決まったあとに「こんな描き方はどうですか」と、私からプランナーに提案して決めています。
竹内:プランナーの方に近い立ち位置なのかもしれない、私は。
及川:プランナーの人にダメ出しされたりもするんですか?
竹内:プランナーの人にムカ〜って思うこともあるんですか?
楠田:(笑)。ラフを見せた時のリアクションで「これはあまりよくなかったかな」と察することはあります。ムカ〜はないですかね。
竹内:うちは家族だから言いたいことを言っちゃうけど、会社員同士だと違うかもしれないね。
及川:僕も竹内に何か言われてムカっとすることもあるけど、数年経って「たしかに竹内が言っていたことも一理あったなあ」って思うことがある。
竹内:数年で一理(笑)。タッチの話に戻るんだけど、いいと思ったタッチで描いてもうまくいかなくて、最初からやり直すこともあるよね。
及川:なんかぱっとしないし、新しさも全然感じない。じゃあ輪郭線をなくしてみようかなって実験し始めると、結局タッチが変わっちゃうんだよね。だから内容によって変わるほうが正解っちゃ正解なんだよ。新鮮さを保つ上でも仕方ないっていうかさ。全部一本調子でやろうとすると、むしろ苦しい思いをする。
竹内:今回は切手とポストカードがテーマということで、私たちが仕事を始めたきっかけになったポストカードを持ってきました。大学時代に「プリントゴッコ」で手刷りしたものなんです。ふたりで画用紙に刷って、フリーマーケットで売って、それを買ってくれた人が仕事の依頼をしてくれて、いまがあります。
及川:すべてが恥ずかしいなあ。
竹内:当時は自分の手で同じものがどんどんできるのが楽しくて、止まらなくて。表3色、裏1色で刷って売っていました。
楠田:味わい深いです。このころから画風は完成されていたんですね。
及川:「プリントゴッコ」の技法に制限されて、この画風になっちゃったんだよね。
楠田:そういうことなんですね。
竹内:なので、始まりはポストカードなんです。
楠田:かわいいですし、色合いも素敵です。
及川:かわいいものは好きですか?
楠田:かわいいもの……描くとかわいくなっちゃうんですよね(笑)。
及川:僕と同じだなあ。
楠田:もともとは少年漫画が好きで、バトルものの漫画を描いていたんですけど。
及川:僕も昔はバトルものを描いていましたよ。
楠田:そうなんですか!?
及川:番長がケンカする絵、描いてたなあ。でも色数を減らしたり、シンプルにしたりしているうちに、だんだんかわいくなっちゃった。別にかわいいと思われたいからそうしているわけじゃなくて、好きなものを洗練させていったらこうなっちゃっただけなんだけどさ。
竹内:楽しい? 描いてて。
及川:楽しいね。今回の企画でも、ポストカードを描くんだよね。猿が寒がってるポストカードにする? かわいそうかな。バスタオルで体を拭いている猿とか。
楠田:お風呂から出たあとの猿ですね。
及川:それか、後ろ姿のこの人がこっちを向いて「わーい!」ってバンザイしてる絵にしようか。旅情がゼロになるけど。
楠田:すごくいいアイデアだと思います。100%ORANGEさんが思う、この子の顔を拝見できるという。
及川:ずっと後ろ向きだったからね。「信州」だからりんごも持ってさ。
竹内:かわいいかも。
及川:りんごを持つか、りんごの木の前に立つか、もしくはリュックの話もしたから、リュックにパンパンにりんごを入れるか。
楠田:猿やりんごは、100%ORANGEさんの画風に合っていますよね。
及川:猿の顔の赤と、りんごの赤、リュックの赤。赤もポイントになるかもしれないね。
楠田:いいですね。楽しみにしています。
完成したポストカードはこちら!
第8回ポストカード
「りんごの旅人」
ポストカードはこちらからダウンロードできます。
https://andpost.jp/project/tegami.html
第8回切手
「My旅切手シリーズ 第8集」
2023年3月22発行
63円郵便切手(シール式)
84円郵便切手(シール式)
全国の郵便局の郵便窓口、
または「郵便局のネットショップ」にて、3月22日から発売開始!
https://www.post.japanpost.jp/kitte/collection/archive/2022/0322_01/
協力:東京イラストレーターズ・ソサエティ、日本郵便
構成・文:平岩茉侑佳